本の読める店

一人居酒屋挑戦記

Entry  blog fuzkue366



咲いたよ

さいたよ

というメモが書かれているがなんだったか思い出せない、わけではない。先日の休みの夜のことだった、その数時間前の夕方のことだった、そのいくらか前の午後のことだった、休みなので映画を見に行こうと思っていて16時35分の回のめちゃくちゃこわい&すごいおもしろかったよと友だちが教えてくれた『ヒメアノ〜ル』を見に行こうと思っていたのだけど牛乳屋さんの配送がやってくるのが思いのほかに遅く、それ待っていたら16時20分になった、牛乳届いたので冷蔵庫入れて映画館に予告編何分ありますかと尋ねると4分とのことで、19分後には本編開始、というところで諦めた。向かえば間に合ったかもしれないが、急ぎたくなかった。怖いのは勘弁だったので見ることが叶わずほっと安心した。
それで渋谷の東急の丸善ジュンク堂に行って本を買って、近辺のカフェ的な店に入ってみた。座った席の近くの席の女性二人は安室奈美恵の熱心なファンで、彼女のライブを見に行くことは非日常的な体験でなみえちゃんからパワーをもらって明日もがんばれるって思える。アップルパイを頼んでみた。アイスが乗ってた。たいそうおいしかった。アイスが溶けることを考慮すると2分以内に食べなければならないみたいな気持ちになったので2分以内に食った。すなわち熱々のアップルパイを熱々のうちに食べきることができた俺の、勝利。という気分で買ってきた『虚構の男』を読んでいた。たいそうノンストップ〜という感じで愉快に読んでいたところ、時間になったので店を辞した。19時だった。19時20分の回のウディ・アレンの新作『教授のおかしな妄想殺人』を見にル・シネマに行った。火曜日は安い日だったらしく安かった。映画を見た。たいそうおもしろかった。それで21時すぎに終映となった。「しゅうえい」と打つと「楸瑛」であるとか「聚英」であるとか見慣れない字が変換候補としてアガる。それで僕はその後、一人居酒屋というのを体験してみようとしておりかすかな緊張を覚えていた。

先日のブログで「基本的に一人で居酒屋行ったりとかはしないというかいややっぱできないというタイプの人間なので」と書いたのだけど、書いたからこそ、「お、じゃあちょっとやってみようかな」という気がなんだか突如むくむくと湧いてきたというかふと思いついたらそんな気が起きたのでやることにした。
で映画は渋谷で見たので渋谷で、となるかと思いきや渋谷はなんだかなーと思った。渋谷といってもどこらへんだったらよいのか見当もつかないし、道玄坂の方とか、なんかお店多そうなイメージなのだけど、知らないけど、なんかこう、渋谷の道玄坂のあたりなんてそれこそいろんな町どころか都道府県から来てる人たちがわーって集まってるんじゃないかみたいな感じがして、そんなのただの観光じゃないかみたいな、知らないけどね、知らないですけど、もっとなんか暮らしに根づいた感じがよいいいいいみたいな、これはいったいなんの気分だったのかな、自分が根づきたいわけではないけれどそういう場所でチャレンジしたほうがチャレンジっぽい感じがしてよさそうな気がして、それで場所を幡ヶ谷と定めた。なんかすごい暮らし感ありそうというか、オフィスとかあまりなさそうだから暮らしの人たちがいる町っぽい感じがして。通り道的には代々木八幡でもよかったのだけど、なんか居酒屋いろいろっていうイメージがなかったし、知っている道を歩いてもなーみたいなところもあって、俺はまだ名前のついていない道をゆくよみたいな、自分の中でのノーウェア、no where、これをnow hereと言った人がいたと人が言ったのを聞いて僕は大いに感心した、それは道玄坂のあたりでいつかの夜だ。

そういうわけで幡ヶ谷まで行き、いざ、というこのタイミングで知った人と出くわしてお久しぶりですねーとか言っていたらつい「このあと何かあります?ぼく飲みに行こうかと思ってるんですけどよかったらどうですか?」と言いそうになったけれどそれでは台無しだということは知っていたのでどうにかこらえて「さようなら」と言った。
で路地に入った、すると、たいへんわいわいがやがやしているのだけどカウンター席があってそのカウンターを見たら全員一人の人っぽいという店がすぐに見つかり、「お、ここならいけるんじゃないか、ここならいけるんじゃないか!」と思って、入ろうかと思ったけどあまりに安易というかそんなのなんのチャレンジにもならないという僕のなかのストイシズムがむくむくと湧いてきたというかふと思いついたらそんな気が起きたのでやめることにした。
それで道を折れてまた折れると商店街になって、とても久しぶりにその商店街に入った。物件探しのときに候補物件があって内見しに来たことがあった、それ以来だった。幡ヶ谷だと初台と比べるとだいぶ家賃が安くなるのだけど、でもあんまり店がいろいろあるからなんか疲れちゃいそうみたいな気持ちもあってやめたのだけど、そういうわけで商店街は活き活きとして両サイドにお店がとんとことんとこ並んでいて、歩いていると居酒屋らしきものもいくつも目に入った。が意外にもチェーン店的な店もわりと多い感じで意外だった。また、小さな居酒屋もあったが、本当に小さくて、カウンターだけで、カウンターの人たちが全員で話しているようなところもあって、「とうていむり!」と思ったりしながら素通り。 歩いて歩いて歩いていくと水道道路というのは正式名称なのかな、水道道路と呼ばれる甲州街道のひとつ北を東西に伸びている道にぶつかって、たしか渡った先も多少なにかあるんだったよなと思って横断歩道をわたって続く商店街を歩いて、だんだん、光が少なくなっていった、人通りもすくなくなっていった。
最後に暗闇にぶつかると僕は踵を返して、「ま、最初からそうなるってわかっていたよな?」と思いながら、最初に見た大衆居酒屋的な店に気持ちは向かっていた。いちおう、他にないか、キョロキョロはしていたけれど、「ま、最初からそうなるってわかっていたよな?ここならアンパイだって、そう思った時点で気持ちはそこにおさまっていたよな?いつもの腰の引けたチャレンジ精神の欠如したお前は、そうなるってとっくに知っていたよな?」と思いながら、最初に見た大衆居酒屋的な店に気持ちと足は向かっていた。でそこに入った。わ〜い\(^o^)/
厨房に面してL字に並ぶカウンターは10席くらいで、その背中はぜんぶテーブルでそこが音源となってわいわい&がやがやの大音量が生まれていてにぎやか。おひとりですか?と問われた気がしたので「そうだ」と言うとカウンターを指されたので「うむ」と言うとお飲み物はと問われたので「ビール」と言うとビールが出されたので「うむ」と言うとお食事はと問われたので「もつ煮込みとマカロニサラダとタンとガツとアスパラだ」と言うとビールを飲むとごくごくと喉がうるおされたので気持ちが爽快だった。周囲を見渡した。左の人はタブレットをタブレット立てに立てて何か見ているか何かしていて右の人はお手持ちのスマートフォンをぬるぬるしていてその右の人はお手持ちのスマートフォンをぬるぬるしていて、背中の人たちは大きな声や頓狂な声や甲高い声をあげてしばしのあいだご歓談している。僕は本を取り出した。なんというか、完全勝利だなと思ったというか、僕は発端となったブログで3つの懸念
「どう時間つぶしていいかわからない」
「視線をどこに持っていったらいいかわからない」
「知らない人と話す状況というか曖昧な状況で人と話すのが苦手」
を挙げていて、まず1点目については「本を読めばよい」で2点目については「本の文字を見ればよい」で3点目については「話さなければよい」で、ぜんぶ杞憂だったというか完全勝利というか、こういうわりと広い居酒屋だったら一人で入るのってこれファミレスに入るのとなんら変わらない変わらなさなんじゃないかというか、なんか全然チェレンジでもなんでもなかったのではないかというか、入店から間もないこのときは、そんなふうに思っていた……

あれこれを食べながら飲みながら、『シンギュラリティは近い』というこの日買った本を読んでいた。きっと飲みながら読むのは小説でない方がいい、という判断からこれが取られた。それで「ほうほう、シンギュラリティがやって来たらなんかもしかしたら楽しそうだから早くシンギュラリティ来ないかな〜いつ来るのかな〜全部シンギュラリティで解決〜〜〜」と思いながら楽しく読んでいた。そうやって1時間くらいが経ったときだったろうか、隣りの男性が「火借りていいですか?」と言ってきて、あどうぞどうぞとライターをお貸しした。どうもどうもつってライターが返され、「いまちらっと見えたんですけどそれシンギュラリティの本なんですね?」と言われ「あそうですそうなんですなんか今日本屋で見かけてシンギュラリティについて知ってみたいみたいな気分が芽生えたというか理解みたいなのしたいみたいな気分が生じたのでシンギュラリティが近いっていう本買って今日買ったのはあと虚構の男っていうSFなのかな1965年とかに書かれているんですけど舞台は2016年でだから今でっていうSFであとwiredの新しいやつ買ったんですけどシンギュラリティとSFとwiredの3冊とかなんか僕全然違うんですけどこれじゃまるでそういうのすごい好きな人っぽい3冊みたいじゃないかみたいに思ったらついつい大笑いしちゃいましたよ、レジにて!!!!!!!!!!」と言ったところ「そうなんですね〜」と言われた、という、起こったらどうしようと懸念していた事態は起きず、安心・安全を確保しながら本を読み続けることができた。そのように心地よく過ごしながらビールを3杯と食べものをあれこれいただき、ごちそうさまでしたああああああああああ!!!!!!!!と言って退店した。もちろんお金を払うことは済ませてから、ね。

そういうわけで一人居酒屋チャレンジ大成功でした。レベル1クリア。これなら余裕。次はもう少し小さい店にチャレンジしてみようと思う(何を目指しているんだろうか)

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