『若い藝術家の肖像』を読む(61)考えただけでもこわくなった

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レオス・カラックスの、タイトルが思い出せない、すごい暗いやつ、アレックス3部作の次のやつ、『ポンヌフの恋人』の次のやつ、作家のやつ、メルヴィル、白鯨、出たー!『ポーラX』!ポーラ!エックス!思い出せるものだ。よかった。白鯨関係あったっけ。
昨日それを池袋駅で思い出していた。友人というか知人というかを待っているあいだ最初パルコに入って、入り口すぐのところの何屋さんていうんだろうコスメ屋さんというのかな、コスメってなに?なんかそういうところで、ハンドソープ売ってそう、いま別に要らないんだけど、と思って見ていたら人間の方が「なにかおありでしたら」とおっしゃるので「ハンドソープってありますか」と問うと「ハンドソープはないんですが」とのお答え。「俺は見当違いの店に足を踏み入れたのか」と思いきや「ボディウォッシュがあれなのでハンドウォッシュとして使っていただけまして」というような説明をしてくださったため「ほうほう」と思って、「最近はハンドソープではなくハンドウォッシュと呼ぶのだな、うすうす感づいていたけどそうなんだな」と早口でまくし立てた。すると店の方は離れていかれたため、しばらくハンドウォッシュとしても使えるボディウォッシュを拝見した。値段もそこそこで見た目もよかったので次のハンドウォッシュはこのブランドで買うとよいかもしれないと思った。
そのあとパルコを見学しようかとも思ったのだけど、女性用の衣類が豊富で私に居場所を与える工夫があまりされていなかったため外に出て、「せっかくなので」と思って池袋の駅を歩く人々を眺めることにした。池袋に来たのなんていつ以来だろう、学生時代は文芸座にオールナイトで映画を見に行ったりして、池袋といえば文芸座というところなのだけど、もう何年も来ていない気がする。と思ったら先月の姉の結婚式のときに来ていた。
ともあれ池袋ではどんな人々が歩行しているんだろうというような興味から、壁にもたれかかってフードをかぶって、ゆきかう人々に視線を向ける。そうしていたら人間の一つ一つが全部おもしろくてつい吹き出しそうになって、口を手でおさえて必死でニヤニヤを隠すみたいなことになって。今の人の髪の毛〜と思ったら次の人も髪の毛〜で、と思ったらぴや〜みたいな髪の毛が通ってコンボ!みたいになって一人でぷひゃ〜みたいなのとか。なんかエリマキトカゲみたいなコートの背中のところだなあと思ったらその後ろから出てきた人は今度は髪の毛がエリマキトカゲみたいだったりしてなんの共進化なんだ?みたいな。共進化って言葉が合ってるのか知らないけど、とか思いながら。愉快な。ニタニタと。
っていうので『ポーラX』なんですけど、道行く人々を眺めながら「豚」とか「売女」とか、売女はあったかな、「臭い」とか言ってたんだっけな、女の子、殴打されて惨事、というのがあって、だから僕もぴえ〜とか言って笑っていたら強面の人物に鈍器でやられて意識不明の重体とかにならないといいな、と思い出した、という話でした。あとは『アニー・ホール』の、公園で、ウディ・アレンと、ダイアン・キートンの、親密な、あの、場面。
ひと通り眺めておりましたが暴漢に殺害されたらことだなと思ったため人待ちのあいだ本を開くことにした。
「ああいう百姓家の、いぶっている泥炭の火の前で、火がちらちらするあたたかいやみのなかで眠るのは、すばらしいだろう。百姓と空気と雨と泥炭とコールテンのにおいをかぎながら。だけど、木々のあいだの道路はなんてくらいんだろう!あんなくらやみでは、道にまよってしまう。考えただけでもこわくなった。(P34)」
スティーヴンは想像屋さん。危ないよ。わからないのかな?わからないんだとしたら、想像しよう。想像して、戻ろう。危ないから。危ないから。戻ろう、想像して。想像しよう、わからないんだとしたら。わからないのかな?危ないよ。
無事パルコ前で待ち合わせが果たせたためあうるすぽっとに行って岡田利規の『God Bless Baseball』を見てきた。前半はひたすら笑いをこらえるのに必死で(笑いをこらえてばっかりだ)、イチローがバットとどれだけ一体化しているかの場面は途中から危険だと思って直視するのすらやめてしまうくらいにどうしても面白くて大変だった。英語を話す天上な感じの存在と日本と韓国のお菓子の話をするところとか、両国のパイオニア的なメジャーリーガーの話をするところとか、あとヘテ・タイガースの話するところとか、やたらエモくて感動した。最後、なんか大変なことになっていた。上記の危ないよのあたりから。こわかった。あと昨日ほど韓国語の響きを美しいというか柔らかくて聞いてていいなと思ったことはなくて、日本語と英語のなかで聞いたせいか、そのやさしさチャーミングさが際立って、とてもよかった。ボトッ、ボトッ、ボトッ、ぷしゃーーーー。想像しよう。想像して、戻ろう。危ないから。
そういった、「これはなんかすごくいいものを見たんじゃないか」という演劇を見終えたあと知人というか友人というかと飲み、終電間近の電車で帰る途中、新宿駅のJR改札出て京王新線への途中のところ、西口の地下のロータリーみたいになっている、もうちょっと向こう行って上がったら高層ビル群みたいなところで、コンビニの弁当が入っていると思しき茶色いビニール袋をぶら下げながらナンパしているスラっとした男性を見かけた。なんで弁当買ってからそれしようって思ったの?思い立ったら即行動なの?ナンパ成功したらそれどうするつもりなの?一緒に食うの?もしかして一緒にこれ食いませんかって声掛けてんの?