ジェイズ・バーを目指すとは言わないまでも

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高校時代の国語教師が面白い人で、2年の前期では泉鏡花の短編「化鳥」をひたすら、後期はめぞん一刻とか千と千尋とかウルトラマンとかをたしか扱っていて、大好きな授業だったので3年のときは選択授業で履修したのだけど、そのときは村上春樹の『風の歌を聴け』を読んだ。
ほら、ここにwombが出てきてこっちにtomb、次にbombでしょ、ほれほれ、ニヤニヤ、みたいな授業だった。フヅクエの本棚に並んでいるよれよれの『風の歌を聴け』には自発的にしたものだとは思われたくない恥ずかしい書き込みがたくさんされている。
そういうわけで高校時代、『風の歌を聴け』に限らず村上春樹の小説にはまりまくった時期があったのだけど、足の踏み場もないほどにピーナッツの殻がまき散らされているというジェイズ・バーってあったじゃないですか。語り手がビール飲み飲み本を読むっていう。あれいいなって。 若かりし日に植え付けられたイメージゆえなのか、酒を飲みながら本を読める店ってすごい贅沢だなあ、とずっと思っていた。
ところが、大人になったんですが、しかし、いったい、どこに行ったら酒を飲みながら本を読めるのか。読む人は居酒屋でもバーでも読めちゃうらしい。でも俺無理だわーと。いつまで許してもらえますか?そろそろもう一杯頼んだ方がいいですか?本読む場所じゃねーよ死ねとか思ったりしてませんか?みたいなことが去来して落ち着かない。(馴染み客みたいな存在になるとそういう振る舞いが許容されるのかな。馴染んだ経験がないからわからないけど)
一方でもうすごくにぎやかな、キャッシュオン系というのかな、そんな言い方あるのかな、まあ、伝わるかわからないけどそういった系の店とかだったら喧騒を隠れ蓑にする感じで読めちゃうみたいなところも僕にはあるのだけど、いかんせんゆっくり落ち着いてっていう気にはなかなかなれい。
据え膳じゃないけど、全部用意してくれて、「ほら、どんどん召し上がれ、本を、そして酒を」みたいに言明してくれないと、僕が小心者なのだろうなとは思うけれども、どっしり構えて本を読むということはできない。
そんな個人的な背景もあり、フヅクエはお酒も楽しみながら本読めるよ、みたいにしたい。というか一応そうなっている。 一応と言ったのは、今日の時点ではビールが8種類(瓶のやつ)、ウィスキー7種、その他スピリッツとかリキュールとか20種くらい、ワインもちょろっと、といったささやかな品揃えのためだ。
その中では、僕としては昨日買ってきたブドウの蒸留酒であるらしいところのピスコの存在がナイスだなーと思っている(ピスコはペルーが本家らしいのですが(そこも議論はあるみたいですが)、行った酒屋さんにはチリのやつしかなかったので、形が面白いし全然いいや、と思って買ってきた)。
ピスコが欲しくなったのはラテンアメリカの小説を読んでいるとピスコ飲んでいる場面をわりと見る気がしたからで。他に買ったうちの一本はエルドラドというガイアナ共和国産(ブラジルの北、カリブ海と大西洋の南)のラム酒で、これはラテンアメリカ小説シリーズの「フィクションのエル・ドラード」というやつを新刊が出るたびに買っているからだ(エルドラドは黄金郷という意味とのこと)。
という、そんな文脈で酒を選んでいるところからもおわかりのようにお酒のこと全然詳しくないわけで。このままじゃまずいぞ、と思っているので勉強をしないとな、と思っているところ。という話。
photo by 斉藤幸子