読書の日記(12/25-31)

2024.01.04
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書籍版新作『読書の日記 予言 箱根 お味噌汁』『読書の日記 皮算用 ストレッチ 屋上』が12月22日に発売になりました!
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抜粋

12月25日(月) 

6時半過ぎに帰り、ワインとかを買いにふたりで出、遊ちゃんは正月の飾りを今年は揃えたいとのことで鶴が中央にいるしめ飾り、しめ縄、門松、鏡餅、それからブロッコリーと玉ねぎとマッシュルームと鶏もも肉とワインとビール。家に戻ると歯磨き粉を買い忘れたことに気づいて遊ちゃんが買いに行き、僕はその間にパンのプレートというか、カッティングボードにカットしたパン、生ハム、スモークサーモン、チーズ2種類を並べたプレートをつくって遊ちゃんを「わあ!」と言わせたかったので急いで用意してパンを切るのが大変だった。無事済んだくらいで遊ちゃんが帰ってきてテーブルに並ぶそれを見て「わあ!」と喜んでくれたので喜んだ。乾杯の前に思い出してクリスマスツリーを出して光を灯し、それからビールを注いで「メリークリスマス」と言った。優くんと飲むときに冗談みたいな感じでメリークリスマスと言い、今年最初で最後のメリークリスマスという発語だろうと思っていたがまた機会があった。

12月26日(火) 

猿田彦。下北沢。ボーナストラック。賞味期限が迫ったドリップバッグの半額セールを始めてお助けを請うたところオンラインストアで100個売れて年末年始というのもちょうどいいタイミングだったのだろう、それで8つくらいある梱包発送の用事もあり店に行くと川又さんが掃き掃除をしていて箒と塵取りがあった。箒と塵取りというのは読めなかったりその言葉の意味を知らなかったりすると全然あの箒やあの塵取りを想起できない字面だ。ジョン・ファンテ『箒と塵取り』。明細書を印刷し、それからロフトに上がるとロフトは先週大河内さんが整理を始めてくれた成果でめちゃくちゃ動きやすくなった。ここのところひどい状態で本当に身動きが取れなかったので雲泥の差で、エリック・マコーマック『雲泥』。そうしていると佐藤くんも入店して時間になったのでミーチング。うどんについて話す。

12月27日(水) 

起きたのは10時半くらいだった。アラームは7時50分から掛けていたが起きる必然性を見出せずにそのまま寝て、9時半くらいに目を覚まして『正反対な君と僕』の最新話を読んだ。東と平が自然に一緒に下校している姿にキュンとして、たくさん、鈴木のアウターも暖かそうで、谷はアイシングクッキーに最初ギョッとして、たくさん、山田は西さんの口にチョコを押し込んで、たくさんキュンとして、僕・阿久津は10時半に起きてコーヒーを買いに外に出た。

12月28日(木) 

結局なんのかんのとやることはあり、そのまま閉店までいた。終えるとビールを飲んでソファに座り、締め作業をしている山口くんに話しかけたりする。なんかこういうの久しぶりだね、と言う。とても久しぶり。今回刊行の『読書の日記』の中でも閉店後に山口くんとダラダラ話す時間が何度も出てきた記憶があるが、状況は少しずつ変わり、この感じは久しぶりだった。夜はいいよね。夜はやさしい。夜じゃないと話せない話がある。
とかなんとかしていると気づいたら12時15分で終電まで3分! 山口くんは5分あると言うので、あとのことは2分余裕がある人に任せて上着も着ずに急いで出、小走りで駅に入っていく。1分くらいの余裕を持って間に合った。

12月29日(金) 

食べ物が着々と減っていく。最終営業日に向けて普段とは違う、着地を目指していくような調整をしながら仕込みをしてきたわけだが、驚くほど完璧な終わりを迎えようとしている。つまり定食のおかずや味噌汁があとちょっとでなくなりそうで、そしてチーズケーキもあとひとつで終わる。早く終わりすぎてもよくないが余りすぎたら大変で、理想としては夜8時とか以降からいろいろ切れていくくらいの感じかと思っていたがまさにそうなりそうで、9時過ぎにチーズケーキが終わった。定食のおかずはあと一食分、味噌汁は二杯分くらい。この量なら自分でさばける。10時、大河内さん上がり、そのままお客さんに移行してフヅクエ納めをするとの由。ジントニックを頼んだのでシュトレンを一緒に出す。僕は閉店後にご飯と思っていたがきっと閉店後は慌ただしいだろうと考え、おかずを平らげていく。洗い物をする。五徳もきれいにし、年末っぽいすっきりした感じになっていき、お客さんは減っていき、終わりに向かっていく。
それで終わり、終電まであと30分、急いで味噌汁を平らげ、レジ締めをし、片付ける。昨日に続いて気づいたら0時15分で出て小走りで終電に向かう。最後の階段の途中で電車が減速を始めて間に合って乗り込んだ。0時18分、一年の仕事が終わった。

12月30日(土) 

「わたしな、今はな、本作る人になりたいねん」
真剣な目を母親に向けて、娘ははきはきと言った。
(…)
「ちゃう。本のデザイナーさん」
未緒は、声を大きくした。
「こないだテレビで見たやん! お母さんも」
ちょっと怒ったように言われ、優子は記憶を掘り返した。
「ああ、こないだのテレビって……」
一か月も前に見た、情報番組の「今注目の人」のコーナーで、若い女性のブックデザイナーが紹介されていた。そのとき未緒はなにも言わなかったし、そのあとも話題に出たことはなかった。そうか、あのとき黙って見ていたのは、それだけ興味を持って集中していたということか。優子は、未緒が自分の気づいていないところでなにかに興味を持ってそれを考え続けていたことに、子供の成長というか変化を受け取って、なんだか胸がいっぱいになった。 柴崎友香『続きと始まり』(集英社)p.106
読書灯の落とす光の位置や姿勢の調整に難儀しながらというかベストのポジションをうまく見つけられないまま、長いこと読み続け、気づいたら120ページまでひと息で読んでいた。こんなに持続した読書の時間はいったいいつ以来だろう。

12月31日(日) 

定刻どおりに紅白は終わってゆく年くる年で坊さんたちがかっこいい鐘のつき方をしていた、雪国の様子が映った、トラックターミナルが映った、あと1分で年越しだ、僕は遊ちゃんに「手をつないで年を越そう」と言って手をつなぎ、それはグッドニュースにあったどこかの家族がやっていた大縄跳びのイメージも影響していたかもしれない、2023年から2024年になる大縄があって、それを遊ちゃんと手をつないで跳んでまたぐそういうイメージ。来年はマジで、マジで来年は、いい年にしたい、そう思った、それはびっくりするくらい、希求という感じがあった。僕は祈る、目を閉じる、そして2024年になり、これは続きか、あるいは始まりか。
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