読書日記(171)

2020.01.19
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##1月9日(木)  なかなか起きる気にならない、無飲酒で過ごしたところ朝が楽になるわけでもない、むしろいつものほうがずっと簡単に起きられる、酒は飲んだほうが体にいいんじゃないか。
スーパー。13日から改装工事で10日間くらい閉まると見たが、もうだいぶスカスカになっていて、コーナーによっては棚自体がもう取り払われていたりする、昨日の壊されるマンションの姿を思い出させる、解体されるスーパー。
店に行き、コーヒー、と思ったけれどやめた、待った、他のことをしていた、すると11時前、森奈ちゃんがやってきて、それからマキノさんが来た、昨日森奈ちゃんが「久しぶりだ、こんな緊張してるの」とツイートしていた、来るとやはり「緊張している」と言うと、マキノさんも私も緊張している、と言って、僕も初めての人の日って緊張するんだよねと言って、3人が緊張していた、今日も僕は気構え注入パートを担当、と思ったが、まずコーヒーが飲みたい、だからコーヒー指南をすることにして淹れて見せ、それから僕とマキノさんの分を続けて淹れてもらった。それから気構えパートというところで、30分くらいだろうか、ひたすら話した。で、「じゃ」と言って出た、渋谷、パルコがあって坂道の見え方が変わった、パルコには至らず折れて、政策金融公庫。金借りの談判というか、担当の方と今日は話して、担当の方がチームの人たちに話して、可否が決まるのだそう。だからここは担当の方にいかに説明しやすい、通りやすい説明を与えるか、という場になって、それでいろいろと、聞かれたことに答えたりしていった、先日電話で「少し見積もりが高く見えるがどういう要因なんでしょう」と言われていたところも、話していたら「高くなるのもこういうことがあるからですよね」と納得を獲得してもらえた、どういう要因だったっけか、小田急による明確に期限が定められた工期と、あとはやはり小田急の物件で原状回復義務とかがやたらと厳密でいろいろと内装の工事のしかたに指定というかいろいろ細かい決まりがある、とかそういうことだった気がする、なるほど、と思った、わからないが、大丈夫なんじゃないか、となんとなく思ったが、どういうものなんだろうか。
それを済ませて税務署に行って、これは源泉所得税関係の書類をもらうだけで、持っていればいいのだけど半年に一度しか使わない書類をストックしておいてもいつもどこにあるかわからなくなる、探すコストを考えるともらいに行くほうがいい、と思ってずっとそうしているやつでもらって、その場で書こうかとも思ったが、出た、家に帰り着く前、コーヒーが、おいしいコーヒーが、今すぐ飲みたい、と思って、それで通り過ぎたあとに引き返してスイッチコーヒーに入ってコーヒーを買った。ドリップバッグで淹れるのもじれったいような、たった今、おいしいコーヒーを、という欲求に対して応えてくれるこの店は本当に高い価値があると思う、大きな意義があると思う、いつもそう思う。そう思うと、下北沢でテイクアウトはやれたらやろうかな、というくらいの姿勢だったが、やっぱりやりたいな、と思った、クイックカップだけでもいいと思う、この「簡単においしいコーヒー」というのが生活の動線の中にあるというのは、とても豊かなものだ、そこをフヅクエが担う必然性はないが、やることでフヅクエの何かが損なわれないのだったら、やりたいように思った、そういうことを、駐車場の敷地の境のところに腰かけてコーヒーを飲みながら思って、家に帰った、入ると遊ちゃんの声が向こうから聞こえたから、お、いるのね、と思って、「遊ちゃんがいる〜、うれし〜」と玄関で靴を脱ぎながら歌っていたら扉が開いて、通話中だから静かに、というジェスチャーがあって笑った。前もこういうことがあったな。
うどんのお湯を沸かしながら給与支払報告書とかの書類をつくって、面倒だった、僕がうどんを食い終えると遊ちゃんは仕事に出ていった、ベランダに出ると、バサバサバサと激しい羽音と枝の揺れる音がして鳥が枝に止まった、数日前に見ていたのよりも痩せた鳥だった、止まると鳥は口を開けてギーともキーともギャーともキャーとも違う、そのあいだのような声で鳴いた、向きを変えながら何度も何度も鳴いて、そして同じ唐突さで真横に飛んでいった、向こうの電柱の上に移ってもそれを続けて、5分くらいのあいだずっとそうしていた、ギ、ギー、ギー、ギーギ。
5時前、また店に。そこで5時上がりの森奈ちゃんを外に呼び出して、今日どうだった、というような話をして、向かいながらふと思いついた、毎回終わりの1時間を俺とドトールで話すとかってどうなんだろう、過剰かな、と聞いたら、毎回だと、うれしいときと今日はいいかなという日が出そう、週1回とかに決めるといいかもしれませんねと言われ、週1、たしかに、と思って、そうしようかな、と思った。
森奈ちゃんと話していると5時からインの西野くんがやってきて、いいダッフルコートを着ていた、中に入っていくと、しばらくするとマキノさんと出てきて、だから階段の踊り場に、僕と森奈ちゃん、マキノさんと西野くん、というそういう二組の指南とかの場ができて、「こんなの初めての光景だ」と言って笑った。僕の勝手な印象だろうけれど焼き肉というか新年会を経て、全員の顔がより柔らかくなったように思えた、これは僕の勝手な、抱きたい印象だろう。またマキノさんアウトの8時に戻ることにしてドトールに行って、ラジオをやったり日記を書いたりしていた。スーパーチャンクを聞いていた。
8時前、店戻り、入らず外で待機、山口くんが来て、中に入っていった、少しすると扉が開いて、山口くん、マキノさん、西野くんが3人で出てきた、それで3人でなんだか引き継ぎみたいなことをまとめてやっていて、見ながら「感動」と思う。感動後、マキノさんに残ってもらって「教えるのどうだった?」というような話、思ったよりも教えられました、と明るい顔で言ってくれて、「感動」と思う。教える人で情報共有するチャンネルをSlackでつくろうか、という話をして、でもなんだか3人だけで密教的な感じになるのもちょっと怖いよね、と言った、でも例えば西野くんはこういう癖というか動きの癖があるようで、それを伝えました、そういう場面があったらちょっと注意して見てあげてください、みたいなことで、でもその共有される情報がセンシティブなものになることって、ありそうな気もして、それをオープンな場でやるのも難しかったりするのかな、でも本当にそんなセンシティブなことってあるのかな、とりあえず3人でいったんチャンネルつくってやってみて、開放してよさそうだったらみんな見られる状態のチャンネルにする、みたいな感じでやろうか、ということになった、なんでだか、これはマキノさんと二人で話していたことだけれども、複数人で意思決定をしている、という感覚になる話で、「感動」と思った、そのあと、店の中へ。一番手前のカウンターの席にそのまま座って、読書の時間とした、今日のこれまでの時間に立て続けにホットチョコレートのオーダーがあって西野くんもつくったみたいなことをさっきの3人の引き継ぎの場面で小耳に挟んでいたので、ホットチョコレートをオーダーした、『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』を開いて、今日はリュックに入っていたA4の紙を出して、メモを取りながら読むことにした、ユウショウと悠生、昨日もそうだったが連載で一度最後まで読んでいるから、出てくる人たちの姿が、そのあとの時期の姿も一緒になって浮かんでくることになって、人物が二重写しになって見える、と、チャンドラモハンが「I'm lazy.」とメッセージをよこしたところを見てまた思って、コモンルームで魚介だったかの話をしているところや、ぎくしゃくと踊っている様子を思い出した。感動する。それだけで本当に感動する。そのあとベジャンの朗読、作家は涙する、翌日、それを伝える。
コモンルームにお茶をいれにいくと、ベジャンがひとりでいた。なので、私はあなたの昨日の話を聞いているときに、あなたが子どもの頃に見た色を見たと思います、と伝えてみた。なんて貧しい言葉か。しかしベジャンはゆっくり、サンキュー、ユウショウ、サンキュー、と言った。ベジャンは私の目をしっかり見るから、私も目をしっかり見る。言ってよかった。 滝口悠生『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』(NUMABOOKS)p.54,55
泣く。泣いて、そうだった、そうだった、これは、何度も泣く本だった、と思い出し、明日の読書会がより楽しみになった。ホットチョコレートがやってきて飲み始めた途端、「なんだか作家というよりは親戚のおじさんのような印象で、私は内心でチャイのおっさん、と呼んでいる」のところで吹き出しそうになって、危ないわ、と思った次のページで、チャイのおっさんはサッカーに参加して「意外に機敏な動き」を見せたあとすぐさま足を怪我してリタイアした。「裸足でやるからだよ、なにしてんだよ。私はどこかドジな親類を見るようにチャイのおっさんを見てしまう」のところでもまた吹き出しそうになって、しばらくのあいだ顔をはっきりニマニマさせることになった。本当に、本当に、本当にいい本。
1時間半くらい過ごして、荷物をまとめ、レジに行って、「じゃ」と言って、外へ。客役おもしろい。外で山口くんと話す、「教えるのどう?」と聞くと、自分が定食のおかずを盛り付けているときに、手先はおかずのことをちゃんとやって、耳で味噌汁の熱される音を聞いて、周辺視野とかでお客さんの動きを感じて、という、これよく自分できるようになったな、と思いました、というようなことをまず言って、つまり教えるということによって自分がやっている作業を言語化していく必要があるから、棚卸しされて、それで驚く、という新鮮な感覚がもたらされたらしく、それはあとで日報シートでマキノさんも同じようなことを書いていた、それは、いいねえ、教える効用だよねえ、と思って僕は「感動」と思ったが、山口くんはもっと感動していたらしく、西野くんがホットチョコレートをつくっているのを見守ったりしながら、なにかずっと泣きそうな気分があったらしく、というかずっと、なにか泣きそうな気分があったらしく、そのときだから山口くんは西野くんに過去の自分を見ていた、二重写しになる。もしかしたらずっと「感動」と思っている僕自身も教える山口くんやマキノさんの姿に過去の自分を見たりしていたのかもしれない。それで山口くんと入れ替わりで西野くんに来てもらって、「どう?」というようなことをしばらく話して、その途中でお帰りのお客さんが出てきて、西野くんがお礼を、いい声いい表情で言っているのを見て、いいねえ、と思う。変な日。11時、5時、8時、10時、スタッフたちとひたすら話してそれが今日の僕の仕事だった。
帰り、昨日のスープをあたため、餃子の皮を。一日経つともう硬化が始まるのだなと思う、26枚入りとかのものを、2食に分けて使う、くらいが使いきれていい、たくさん食べられるし。
遊ちゃんは泥のように寝ている、「今日は泥」というのはよく言うことだった、食後、アルコールを解禁することにしてウイスキーを飲みながら今福龍太。「孤独のなかの親密さと、沈黙のなかの豊かな対話とは、おなじ出来事の両面である」「孤独のなかで発見する真の豊かな沈黙の音」、ソローの言葉を見ながらフヅクエを思う。それから『アイオワ日記』を思う。沈黙のなかの豊かな対話。貧しい言葉、とここまで2度出てきてそれはどちらも貧しい言葉のなかでしかし深く通じ合ったと感じられた場面でのことで、ロベルトとの時間もそうだろう、と、そこで、プレイリストをつくろうと思ったんだ、と思い出し、ここまで出てきた音楽、ジミヘンの「VooDoo Chile」「Fire」、マイルス・デイヴィスの「So What?」、DCPRG「Hey Joe」のプレイリスト「アイオワ日記」をアップルミュージックでつくった。明日の開場から開演までの30分、流しておくつもり。
寝るまでは水上滝太郎。小島信夫で寝るのもおかしくて楽しい夜だが、水上滝太郎で寝るのもゆるゆると心地よくて、ここのところこれが楽しみな時間になっている。
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##この週に読んだり買ったりした本
小島信夫『別れる理由 Ⅱ』(講談社)https://amzn.to/2E4yfkp
水上滝太郎『大阪の宿』(岩波書店)https://amzn.to/2PU7TZ4
滝口悠生『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』(NUMABOOKS)https://amzn.to/309Ai0D
今福龍太『ヘンリー・ソロー 野生の学舎』(みすず書房)https://amzn.to/2qMx1qO