本の読める店

読書日記(155)

Entry diary155

9月18日(水) 

昨日もまた寝落ちだったのか、覚えていないが、起き上がって電気を消した記憶がないからそうなのかもしれない。遊ちゃんが朝、仕事に出た。僕はなにも決めずに眠っていた、チャイムが鳴ってお届け物だった、起こされたよ、と思ったが時間を見たら11時半で、ちょうどいいか、と思ってぼーっとしていたら、またチャイムが鳴って、お届け物だった。起きて、うどんを茹でて食べた。
原稿を今日は、夜の打ち合わせの時間までやろうと思っていて、そうなるだろうな、そうするだろうな、と思っていたとおり、店に行くことにした。どうしてだか先日聞いていたシネマティック・オーケストラの、他のアルバムを流して、コーヒーを淹れて、原稿に取り組もうとした。まったく集中する気配がなくて、これは怖いということなのだろうか。書く手がかりというか、気持ちの引っ掛かりみたいなものがないときというのは、怖い、と思っているフシがあって、それはだからなにもおもしろくないみっともないつまらないことを書くことへの怖さみたいなものらしかった。それはプライドとかと関係するものなのだろうか。そうとは思えないのだが、実際はどうなんだろうか。音楽をノイズに切り替えて、週末の予行演習を兼ねてそうした、それはいい音楽だった。途中で配達の方が来られて申し訳なく感じた。
そのまま全然集中する気がなさそうなネットサーフィンをおこなっていたところ、メッセンジャー引退の会見の記事を読んでスクロールしていたら、画面の右側のアクセスランキング上位記事みたいなところに、「【MLB】前田健太、救援で2年ぶり2桁10勝目! 1回3失点、防御率4・18」とあって、前半のテンションと、そのあとの投球結果のギャップに一瞬認識が追いつかず、「なんだ?」と思った。書く気がない。
諦めて、本棚を見ながらうろうろ歩いて、時間を見たらあと30分あるから、これならきっと読める、と思って、『新潮』をリュックから取り出した、「全然」を読み始めた。

そういう、結局は全部衣田経由で伝え聞いただけの秋山くんが実は私にとっていちばん強い印象で、そういう印象と自衛隊に入ることがあまりスムーズに結びつかなかったのだった。そう思うと、その印象は別に自衛隊とそう遠くない、というかむしろ近い気もして、私が、意外、と思ったのは、なにか別の、抵抗感とかだったかもしれない。 滝口悠生「全然」『新潮 2019年 10月号』(新潮社)p.100

意外、と思ったのは、なにか別の、抵抗感とかだったかもしれない。というところで、ここまでも、ずっと、じわじわと胸がなにかあたたかいというか感動しながら読んでいて、いたのだけど、ここで、あふれるようなところがあった。どこまでも丁寧だなあ、と思う、ひとつひとつの言葉が本当に丁寧で真摯だなあ、と思って、僕はたぶんこのときに湧き上がっている感情は喜びで、喜んでいる。ずっとうれしく思いながら読んでいった。「たっしんさん、あなたのお兄さんは」と墓碑かなにかの前で言った、「このあいだなくなりましたよ。そのひとは、私の祖父です」。

あなたの姪は、結婚した男とのあいだに、ふたりの子どもをもうけた。男の子と女の子。昭和の終わり近くに生まれたその兄妹の、妹の方が私です。私は三森来未です。どうぞよろしく。そうです、あなたと同じ名字です。(…)アルバイト? パン屋。パン屋でもう四年間もバイトしてる。はじめは週二だったのにいまでは週五日で、もしかしたら私このままパン屋になるかもしれません。いや、本当に。私、パンは好きだし、接客も好きです。もとは売り場でレジを打ったりパンを並べたりするだけだったんだけど、最近は窯の温度を見てパンを窯に入れたり、焼き上がりを見極めて窯から出したり、あとは曜日ごとに異なる翌日の仕込みもする。生地の配合、成形も全部ではないけれど手伝っていて、つまり仕込むし、こねるし、焼く。そして売る。てことはある程度ひとりで店をまわせる。新商品の価格を一四〇円にするか一五〇円にするか、みたいなことで店長から意見を求められたりもする。そうすると原価がどれくらいか、みたいな話にもなるから、経営的なことも垣間見たりする。いやあ、パン屋はマジ大変。 同前 p.103,104

ずっと嬉しく喜びながら読んでいて、パン屋で働くことについての二度目の言及は、一度目から嬉しかったけれど、それは二度目のサビみたいな感じがあって、よりサビ感のあるアレンジで演奏される二度目のサビみたいな感じがして、一度目があったから二度目がもっと高まって、わー、だった。連載の一話を、ひとつの演奏として聞いているようなそういう感じがあった。そのサビが、パン屋で働いてるんだけどパン屋で働くのってなんか好きなんだよねなんていう歌詞で、なんて、最高で、ずっと泣きそうになりながらニコニコと、ステージを見ていたみたいな感じだった。

読み終えるといいタイミングで6時になって、パソコンを開いて、華南子ちゃん東野さんと打ち合わせだった、スカイプとか入れておいたほうがいい感じですか、と事前に聞いたときはなくて大丈夫ということで、メッセンジャーでカタカタ言葉だけでやるのかな、それも意外に不便なくできるものなのかな、と思っていたが、リンクが送られてきて開くとスカイプみたいなやつで、だからスカイプみたいなやつで打ち合わせだった。つくっていただいた図面を見ながら、ああだこうだと話して、本棚のことと2階の敷物のことがいちばん話されて、意思疎通ができた感じがあった。
途中でさっちゃんが入ってきて、今日はこのあとに飲む予定で、なんか文字だけの打ち合わせっぽいから気にせず入って待ってて、と伝えていたが、めちゃくちゃ話していた、しかもスカイプ的なものでやりとりをするというのが僕は慣れないから必要以上なのかどうかもわからない感じで大きな声で話していて、僕はカウンターの一番奥の席で、さっちゃんは一番手前の席で、なにかしばらくパソコン仕事をしていて、そのあとソファで本を読んでいた。途中、二度、お客さんがあって、すいません今日は閉まってるんです、しばらく平日はぐらぐらした感じになりそうで、と伝える場面があった。7時半くらいまでに終わるかと思っていたら8時になって、ごめんごめんお待たせさまですと、半分寝ているようだったさっちゃんに言って、出た、遊ちゃんもちょうど仕事が終わってこれから向かうということだった、今日は市ヶ谷での仕事だったから、一本だった。
緑道沿いのイタリアンは、遊ちゃんが先日続けて一人で入ったところで、遊ちゃんが行ってクルドの人なんだってと教えてくれたちょうどその日か翌日くらいにさっちゃんからこのお店知ってる、と聞かれ、行きたいんだよね、ということだった。さっちゃんはクルドの人たちの写真を撮ったりしていた。それで行くことになって行って、入るとさっちゃんの知り合いのクルドの青年が働いていて、ハンサムだった。2階に通されて、隣の4人組がやたら静かで、お通夜みたいにパスタを食べていた。お通夜だってもう少し明るいのではないか、という喋らなさだった。遊ちゃんもすぐに着くだろうしというところでビールとポテサラだけ頼んで、近況を聞いたりしていた、昨日とかにインスタで見かけて、三浦春馬の写真を撮っていて、その前は豊川悦司と妻夫木聡の写真を撮っていて、なになに、調子よくやってるの、と言った。運がよかっただけだと言ったが、そのどの人も出ていて好きな映画があるというのはうれしいことだよなと思った。『東京公園』『接吻』『 あれ、なんだろう、このお三方だと僕はいちばん見ている顔だけど、この一本っていうとどれだろう、いろいろありそうで、今、思いつかなかった。
遊ちゃんが来て、3人で、飲み飲み、食べ食べ、話した。遊ちゃんがなにかのときに「上手ですもんね、当たり障りのない話」と、どこかの代理店の話だったか、そう評していて、それからさっちゃんは「世界がパンフレットみたいに見えている」と誰かのことを言っていて、「どちらもいい言葉だなあ!」と僕は感心した。
ビール2杯とワイン2杯で僕はずいぶん酔っ払って、帰ることにして、出た。出ると、阿波踊りの提灯がずらっと並んでいて、明かりがついているものと、もう消えているものがあった、見ている途中でまた一部が消えた。

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この週に読んだり買ったりした本

滝口悠生『愛と人生』(講談社)https://amzn.to/2UV26n6

ティム・インゴルド『ライフ・オブ・ラインズ 線の生態人類学』(筧菜奈子・島村幸忠・宇佐美達朗訳、フィルムアート社)https://amzn.to/2K4drfs

マルセル・プルースト『失われた時を求めて〈5 第3篇〉ゲルマントのほう 2』(井上究一郎訳、筑摩書房)https://amzn.to/2v1ZyY0

滝口悠生「全然」『新潮 2019年 10月号』(新潮社)https://amzn.to/2A45v9l

伊藤亜紗『記憶する体』(春秋社)https://amzn.to/2V3mWAH

『精神看護 2019年 9月号 特集 グラフィックレコーディングのインパクト なぜこのツールは希望を生み出すのか』(医学書院)https://amzn.to/2IfjmxU

劉慈欣『三体』(立原透耶監修)、大森望・光吉さくら・ワンチャイ訳、早川書房)https://amzn.to/2UJc36R

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