本の読める店

今日の一冊

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エンリーケ・ビラ=マタス『パリに終わりはこない』(木村榮一訳、河出書房新社)

2017年9月21日
それにしても暇すぎる。今日も度し難く暇で、トマトを焼いたりカレーを煮込んだりして、あとはそういうことをやっていたら時間がすぎて日が傾き始めた。外に出ると風がいい調子に吹いていて気持ちがいい。季節移ろう。それにしたって暇だ。『パリに終わりはこない』を読み始めるときが来たかもしれない。
読み始めた。

その朝は雨が降っていて、寒かったので、サン・ミシェル大通りにあるバルで寒さをしのいだ。しばらくして気づいたのだが、私は奇妙な偶然で『移動祝祭日』の最初の章に登場する人物と同じ状況に身を置いていた。つまり、語り手は雨の降る寒いある日、サン・ミシェル大通りにある《快適で温かく、清潔で心の安らぐカフェ》に入っていくと、着古したコートをコート掛けにかけ、長椅子の上の帽子掛けにフェルト帽を引っ掛けてから、カフェ・オ・レを頼んだ。そのあと短篇を書きはじめるが、若い娘がひとりで店に入ってきて、窓際に腰を下ろしたのを見て胸が熱くなる。
コートもなければ帽子をかぶってもいなかったが、私は一軒のカフェに入ると、憧れのヘミングウェイにちょっぴり敬意を表してカフェ・オ・レを頼んだ。そのあと上着のポケットから手帳と鉛筆を取り出し、バダローナで起こる出来事を書きはじめた。その日のパリは雨模様で風も強かったので、私の短篇の中でも同じような天候にした。その時、予測もしない、信じられないような出来事が起こった。偶然の一致というほかはないが、若い娘がカフェに入ってきて、私の席に近い窓際のテーブルに腰を下ろして、本を読みはじめたのだ。
エンリーケ・ビラ=マタス『パリに終わりはこない』(木村榮一訳、河出書房新社)p.12

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