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読書日記(148)

Entry diary148

8月1日(木) 

いつまでも寝ていていいといつまで寝るのか、起きたら13時とかだったらどうしようかと思ったが11時半だったか12時前だったかに起きて、寝たのは8時間か9時間くらいだからどうしようもなく寝すぎたわけではないはずだけれども全身が疲れていた、ガチガチに疲れていて、硬い床で寝ていたみたいだった。家にはもううどんはなかった。遊ちゃんが出るというので一緒に出て、暑かった、遊ちゃんがアイスコーヒーを買っていたので一口もらって、そこで別れた、遊ちゃんはバスに乗るらしかった、僕は富士そばに向かうらしかった、大盛りのもりそばを食べてもりそばとざるそばの違いを僕はわかっていないしもうひとつわからないものがあった、「特もり」みたいな名前だったろうか、「特もり」みたいなものよりもりそばと大盛り券を買った方が安くて、「特もり」というのはどれくらい「特」なのだろうか、判然としなかったから、もりそばと大盛り券にして、安く、多く、食べて、お腹が膨れた、ドトールで原稿だ、と思ってドトールに入って、給与明細をつくったりフォーマットをより快適なものに変更したりしていた、はじき出してみると山口くんにはいつもよりも2万円以上多くの賃金を渡せることになったらしく、愉快だった、そのまま、一切、原稿に向かう気が起きなくて、今日もずっと寝ていたのは原稿に向かうのが怖かったからだろうと寝ながら思っていた。夢の中で大雨で、小学校の場所を探していた、見つかったのかどうか、広々としたドトールに僕らはいた、僕らというのは、誰だったのか、5人から10人程度の小集団だった。

まるきり原稿に向かう気がそのまま起きないまま、ドトールにいて、エディタが開かれている画面に移ることすらしていなくて、頭をどうにかしないといけない、と体の感覚も含めた環境のせいにし始めて、走りに行こうかな、という気になっていった、走って、リフレッシュをしたら、なにか変わるかもしれない。そう思ってというか諦めて、帰り、走りに、行った、西原のスポーツセンターに着いたころにはもう汗が体中から吹き出していて、自転車を停めていると向こうの幼稚園から声が聞こえた。向くと、水が撒かれていて、光を反射させた曲線が空に掛かっていた。そのそばを虫取り網を持った、帽子をかぶった、カゴを斜め掛けのかばんみたいに掛けた、男の子がとことこと歩いている。深い緑の木々の向こう、その隙間からそれが見えて、蝉の鳴き声が光景全体を包んでいた。

汗だくになりながら屋外のテーブルのスペースでラジオをおこなって、それから走った、文化放送のラジオを聞いていた、ずっと誰かしらがしゃべっていて、それはニュースもあれば交通情報もあればで様々だったけれど、時間が溶けていくようだった。
汗だくのまま帰ってシャワーを浴びて、「野球でも見ようかな」という気が起きたが、それはしなかった、ビールはすぐに開けた。もう今日は俺は原稿はやらないのだろうか、結局この2日、原稿にほとんど手をつけられなかった、と思いながら、玉ねぎと生姜とにんにくを炒めた、ズッキーニと玉ねぎとみょうがを切って、塩をまぶしてボウルの中で混ぜた。強火で炒め続けて、フライパンの底面の熱を感知するのか、コンロは何度かピーピーと音を立てて勝手に火を弱めた、困るんだよ、強火でいきたいんだよ、と思いながら、弱くなったので仕方がないのでそのままにして、この弱さだったら焦げることはない、と思って外に出て一服をして戻ると、すっかり焦げていた、真っ黒のフライドオニオン、炭化、という感じで、やってしまった、と思い、いけない、いけない、と思った。気持ちが落ちていきそうで、これはいけないフラグ、と思った。遊ちゃんに玉ねぎを買ってきてもらって、焦げたものは捨てた。再度、生姜とにんにくを刻んでいるあたりで遊ちゃんが帰ってきて、玉ねぎをまた切って、フライパンに入れた、元気が、消えていきそうな怖さがあって、怖い、怖い、危ない、と思いながら、ビールを飲んだ。遊ちゃんに今日までの原稿を送った。遊ちゃんに見てもらいたかった。
今度はきれいに飴色の玉ねぎができて、トマトをやって、スパイスをやって、そうするとグレイビーができた。『ひとりぶんのスパイスカレー』のレシピに則っていた、サバ缶のカレーだった、見ると、ココナツミルクを買い忘れていたことがわかり、遊ちゃんが「買いに行こうか?」と言ってくれたが、僕は読んでもらいたかったから、僕が行った、一番近所のスーパーには見当たらなくて、もうひとつのスーパーまで歩いた。ココナツミルクとビールと、それから前に買っておいしかったハニーローストピーナッツを取った、僕以外買う人がいないのか、前もそうだったが蓋には埃が積もっていて、拭った。パッケージには「STRIKE EAGLE」という威勢のいい感じのする文字が書かれていて、それを見ながら夕暮れ時で混んだ、なかなか進まないレジの列に並んでいた。
家に戻り、カレーの続きをおこなった、グレイビーにサバ缶のつけ汁を開けて、そこに刻んだ青唐辛子とパクチーの茎を入れて、しばらく馴染ませて、ココナツミルク、サバを投入した、サバは、ひとくち食べてみたらふっくらとおいしくて、サバ缶というものに馴染みがないから他のものがどうなのかわからないが、おいしいものだと思った、岩手のサバ缶だった、「Ça va?」という、黄色いやつだった。
ボウルの野菜の水が出たので軽く絞って、パクチーをきざんだもの、にんにくのすりおろしをほんの少し、オリーブオイル、ビネガー、クミン、ひよこ豆、塩コショウ、それで混ぜた。カレーもできて、食べた。カレーもサラダもずいぶん、バカみたいに、おいしくて、二人で大喜びしながら食べた。とってもおいしい。

お腹いっぱいになって、食べ終えて、それから遊ちゃんに感想というか、原稿のことを聞いた、総じては面白かったみたいで、僕は「これで今週分として送っちゃっていいかな」という、そのゴーサインがほしかったらしかった、そんなことも自分では決められないみたいだった、背中を押してもらったので、じゃあ今週はこれでよしだな、という気になったので、送った。次の一週間はもう少しがんばりたいというか、がんばれたらいいなと思うのだが、なんだろうか、暑さのせいで取り組めなかったと思うことにしたい。
それにしてもこの2日は本当になにもできなかった。こんなことなら映画でも見に行けばよかった。ヤスミン・アフマド。
ルシア・ベルリン。『掃除婦のための手引き書』を読んで、それからカレーをつくりながら読み始めた『美容は自尊心の筋トレ』をまた読んだ。

美容って、どんなことから始めたらいいの?と訊かれたら、最初に伝えたいのは、「自分の肌にやさしいタッチで触れましょう」ということ。普段から「やさしく触れる」を意識してほしいのはもちろんだが、スキンケアの広告に出てくるような両手で顔全体を包み込むポーズ「ハンドプレス」をぜひとも取り入れてみてほしい。某化粧品メーカーの研究で、クリームをハンドプレスで塗り込んだときとそうでないときを比べると、快感情が高まり、肌も綺麗になるということが実証されている。使うアイテムはいつもと同じでもいいので、目を閉じてゆったりと深呼吸しながらやさしくハンドプレスでなじませてみて。普段スキンケアに熱心じゃない人なら、かなり違いがわかるはずだ。 長田杏奈『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)p.28,29

保湿剤ではなくて乳液を顔に塗りたくるようになってから僕も、ハンドプレスという呼び方は知らなかったが、ハンドプレスをするようになって、これをやって、ふー、ふー、と言っていると、たしかに快感情が高まる感じがあって、自分を労っている感じがあって、いいんだよな、と思ったので、この箇所を読んだら乳液を顔に塗り込んだ、「あれ、さっきも塗ってなかった?」と遊ちゃんが笑った、「いいの」と僕は顔を包む手のあいだから言った。この本に書かれていることはなんというか、総じて、とてもいいような気がしながら読んでいた。自分には労るだけの価値がある、という認識は、とても大切な気がした。
労るために酒を飲んでいたら眠くなり、けっこう酔い、飲みすぎたな、と思った。労りのつもりが自傷みたいになることも、多々あった。飲みすぎる。今日は、今日も、なにもできなかった、後悔みたいなものを覚えながら、しかしそう落ち込むことは回避できた、早々に寝た。

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この週に読んだり買ったりした本

ティム・インゴルド『ライフ・オブ・ラインズ 線の生態人類学』(筧菜奈子・島村幸忠・宇佐美達朗訳、フィルムアート社)https://amzn.to/2K4drfs

印度カリー子『ひとりぶんのスパイスカレー』(山と渓谷社)https://amzn.to/30Zfwjz

綿野恵太『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(平凡社)https://amzn.to/2K07q4M

滝口悠生「絶対大丈夫」『文學界 2019年8月号』(文藝春秋)https://amzn.to/32k8tn5

長田杏奈『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)https://amzn.to/2K4y0Z1

ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』(岸本佐知子訳、講談社)https://amzn.to/2JE0Pwk

マルセル・プルースト『失われた時を求めて〈5 第3篇〉ゲルマントのほう 2』(井上究一郎訳、筑摩書房)https://amzn.to/2v1ZyY0

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