本の読める店

今日の一冊

Entry apc 0134

植本一子『台風一過』(河出書房新社)

読みたかった理由は次のとおりです。

でも、私はやりたいんです。私は私の名前だけで、勝負したいんです。そう言うと工藤さんは「時期尚早だと思います。編集の立場からしても、友人の立場からしても」と言われ、もう終わってしまったんだな、と思った。この人を置いて、私は次へ行かなくてはいけない。 植本一子『かなわない』(タバブックス)p.134

病院を出てすぐに神田さんに電話した。テンションが上がってしまい、笑いながら「神田さんならいいよ」って言われたよと話した。神田さんはかなりショックを受けている様子で、それがおかしくてまた笑う。
「俺、いつでもなんでも手伝うよ」
と、頼りない神田さんが言う。私は、やるしかない!と連呼していた。それ以外に、言葉が見つからない。バスが来たので電話を切り、一人になった。静になると、なんだか一気に力が抜けてしまうようだった。(…)
綾女さんから「大丈夫なの?」と聞かれる。もうそのときは、大丈夫ですとは言えず、気づけば顔が歪んでしまった。二人とも何も言えなくなってしまう。大丈夫じゃないとも言えず、何も言えない。言葉にならないというのはこういうことなんだなと思った。涙しか出てこない。シッターの終わりの時間まで少しあったので、お茶でもしましょうか、ということになった。近くの喫茶店「らんぶる」で、またテンション高く今日の話をしてしまう。二人ともただ聞いてくれた。また、やるしかない、やるしかない!と言っている。やるしかない、が便利な言葉になりつつある。(…)
いま、この瞬間、一人でいることが辛い。神田さんとLINEをしたり、いろんな人とメールをした。石田さんのツイッターを何度も見返す。「いいね」の数が増えていく。何かしていないと、ふいに涙が出てしまう。この世界にひとりぼっちな気がして、暗い気持ちが押し寄せてくる。 あぁ、これまで私は、一人じゃなかったんだ、と思った。いつもそばに、石田さんがいたのだ。 石田さんは、どこに行ってしまったんだろう。 植本一子『家族最後の日』(太田出版)p.137-142

家に戻って夕飯。昨日と同じく野菜と豚肉と豆腐をぶち込んで鍋。石田さんがいないから、雪平鍋ひとつで三人分がまかなえ、それでも余るくらいだ。食後、食べかけだった黒胡椒のついた大人向けのせんべいをかじっていると、娘たちもカライカライと言いながら食べている。上の娘は『ちゃお』を読みながら、下の娘はおままごとをしながら、私は原稿を書きながら同じ袋からせんべいをとっていく。 同前 p.189

9月25日(日)晴れ
やっと晴れた。朝から布団を干すなど。石田さんにメールをしてみると、昨日よりはマシらしく、夜寝られたという。
午前中、溜まった原稿書き。
これも読めそうにないから持って帰って、と言われた本、斎藤環著+訳『オープンダイアローグとは何か』を読み始める。石黒さんにもらったらしく、これだけは読もうかな、と病院に残していたのだが、なんだかんだで本は読めないらしい。私も気になっていたので読み始めるも、あまりの眠気に昼寝。本はなかなかおもしろそう。 同前 p.212

11月18日(金) 晴れ
今日から日記を書き始める。久々に河出の岩本さんと打ち合わせ。自分からやりたいと思わないと進まない文章の仕事というのはタイミングがあるものだけど、今日やっと岩本さんの提案とわたしの出来ることとやりたいことが合致した気がする。機は熟した。メモ的で粗くてもいいと言われたので、本当にざっくりと書いていみようと思う。そのうち新しいスタイルが作れたら良い。
打ち合わせ中、やはり雨宮まみさんの話題に。昨日の訃報から雨宮さんの連載なんかをいくつか読んだけど「心を削って書いている」というようなことがあって、本当に人ごとではないなと思ったのを思い出した。いつかどこかで会えるかもしれなかったから、というのもあるけれど、やっぱり近いものがあったから訃報にはかなりショックだったし、恐ろしかった。雨宮さんには『かなわない』が何故受け入れられなかったのだろう、とふと考える。今となっては本人に聞けないから真相はわからない。 植本一子『降伏の記録』(河出書房新社)p.9

わたし自身は、柴山さんが担当で本を作るのはいいが、出版社はどんどん替えていきたいと思っている、と正直に話した。柴山さんはその流れで、会社を辞めようか迷っていて、自分で出版社を立ち上げることも視野に入れているという話をしていた。そして、植本さんの原稿を次にもらうとしたら、お母さんが亡くなった時の話が欲しいと思っています、というニュアンスのことを言った。一字一句までは覚えていないが、そういうことを言ったのは間違いない。というのも、その時の違和感を忘れようとしていたのを、なぜか本を読むことによって思い起こさせられたからだ。
その後どんな風に自分が返したかは覚えていないが、違和感の中で会話を続けていたことだけは覚えている。言っている意味はわかる。編集者としてそれは欲しいだろう。わたしも母が死んだ時、なんらかの形で文章を書くかもしれないし書かないかもしれない。でも、それを先に言われてしまうと、そんなことを言う人には絶対にその原稿は渡さない、とも思ったのだ。
帰りのタクシーで一人になった時、仲良くなりすぎたのかもしれないな、と思った。その時の違和感をうまく言葉にできないから、言われたことは忘れようと思っていた。
それが今、失礼なことを言われたんだ、ということをやっと自覚したような気がした。 同前 p.95

砂鉄さんが隣に立ったので「書くことで戦ってるって思う?」と尋ねる。
「思うよ。よく、内面は書いてないって言われるけど、やっぱり自分の内側から出てくるもので書いてるから、そうは思わないし。いまだに書くことで何言われるか怖いしね」
砂鉄さんが内面で書いているというのは最近わかるようになった。砂鉄さんも、わたしも、東京で戦っている。だからこの人のことが、好きなのだ。
「なんかもう戦えないって思っちゃった」
本心だった。もう書ける気がしない。石田さんのことを書くことが怖い。死んでいくだろう石田さんを見つめるのが怖い、出来ない。こんなふうに思ったことは今まで一度もなかった。何を書いても平気だし、それは書けることだけ書いているから、いくら赤裸々と言われても、自分ではそうは思わなかった。ただ淡々と、自分が感じたことを、自分が傷つかないで済む範囲のことを書いただけだ。
でも、もう何を書いても自分が傷つくような気がしてしまう。書くことが怖い。もうわたしは、書けないかもしれない。 同前 p.188

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