今日の一冊

2019.05.07
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####井野朋也『新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには?』(ブルース・インターアクションズ)
たしかこれを読んでいたのはフヅクエを始めた年の5月の頭で友人の結婚式に出席するために埼玉に戻ってきたときだった、と思って調べてみるとたしかに「到着予定時刻よりもいくらか早い6時すぎには新宿駅西口に着き降ろされ、小雨の降る中で喫煙所で煙草を吸っていると清掃員が三人ほど勢いよくやってきて、掃除をするから喫煙所の外で吸うように人々を促した。喫煙所の外に、簡易の灰皿が置かれた。そこに立っていると、喫煙所内に残された傘などのゴミがどんどんと外に放られ、足元を脅かされるふうだったのでまた一歩横にずれた。小雨が降っていた。6時過ぎ、それでもたくさんの人がすでにこれからという一日を生き始めているという情景を見ながら、一人、一人の顔であれば、私は彼らを肯定することができるのかもしれない、と思った。思い込みでしかないだろうか。何かに属して自信を持ったり役割を演じたりする顔ではなく、ただの一人である、何者でもないその顔であれば、なんとか肯定できるような気がその朝には確かにしたのだった。
7時までうろうろとしながらどうにかやり過ごし、開店したばかりのベルクに入ってモーニングとビールを頼んだ。やはり美味しかったし、初めてベルクで椅子に座るということができた。
無性に、ナヌークのノートがほしいという気分になり、ネットで取扱店を見ると大宮のエキュート内のスミスとあり、そこが9時半オープンだったので、新宿から鈍行で大宮に行ったり、エキュート内のプロントが経営しているっぽいカフェ・バーみたいなところで時間を潰したりして9時半すぎのスミスに行くと取り扱いがないとのことだった。なぜか諦めきれず、浦和のパルコにあるスミスに電話し、ない、と言われた。私は何かさも知ったように今ナヌークだとかスミスだとか打っているが、実のところは何も知らないのであり、デルフォニックスという名前はなんとなくは聞いたことがあったぐらいで、そもそもステーショナリーという言葉ですらおぼつかなく、駅? という感じがどうしてもしてしまうから、認識の構造を作り直さなければいけないのかもしれないし、ナヌークもスミスも、調べている中でそのときに初めて知った名称ということだった。あのノートがほしい、から始まった、ということだった。諦めて東急ハンズでろくでもないノートを買った。そのあと高島屋にあるジュンク堂で本を買った。岩井克人の『資本主義から市民主義へ』というやつだった。
それらを持ち、24時間営業をしている古い喫茶店に行って、ソーセージの盛合せとビールを2杯。ベルクで買ったベルクの本を読んだ。たくさんの名言というか、いやー、いいことおっしゃる、ということが書かれていて、たくさんメモを取った。店を出て実家に向かったのは13時ぐらいだった。この喫茶店はどうもだいぶ老舗の雰囲気があるのだけど、なんで24時間もやってるんだろうといつも思うけれど、年末に帰ったときに初めて存在に気づき、それから何度か来ていて、メニューがやたらに豊富で、完全に喫茶の枠を超えているというか方向性がよくわからない、という感じが好ましい。私はソーセージとビールで、右隣に座っていたご婦人はアメリカンを飲み、左隣りの若い、白々しい、妙なハイテンションの、ろくでもないとも初々しいとも言えるカップルというか男女はオムライスと豆腐丼なるものを食べていて、豆腐丼については「熱い、熱い」と女が連呼していた。このえうなく楽しそうに「全体的に熱い」と言っていた。
家に帰ったとてやることもなく、ソファで昼寝をした。起きれば暗くなっていた。夕飯を食べ、日をまたぐかまたがないかぐらいで眠り、翌朝8時には目を覚ました。勝手に8時に起きる、ということは私にとってはありえないことなので、「わお」といささか過度のリアクションの声を上げた。」とありそのろくでもないノートを開いてみるとたしかにたくさんのメモが書かれていて「本当の接客とは、その人の不安を取りのぞいてあげることではないか(p.69)」というフレーズを引き写していて赤いペンで囲ってある。3ページにわたるベルク本のメモが終わった次のページには「「自分ならこんな店がほしい」を考えてみる」とあってまだ名の与えられていない今から作ろうとしている場について考えられていて、「快適な読書の場、それを可能にするには」とあってこうある。「一定以上の静けさが常にある」「長くいてもいいと感じられる」「腹が減ったときに食べるものがある」「時にはタバコを吸いたくなるので、吸えるか、吸いに出にいきやすい」「長く座りやすい椅子」「ノートをある程度広げやすい机」「電源の確保、wifiがあるならなおよし」「夜遅くまでやっている」「人間の安心感、共犯意識と呼んでもいいし、人間だけが生みうる空気」「一方で内輪感(悪しきアットホーム感)はない」とあってたしかにフヅクエが生み出されようとしていた。
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