今日の一冊

2019.05.02
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####マルセル・プルースト『失われた時を求めて 〈5 第3篇〉ゲルマントのほう 2』(井上究一郎訳、筑摩書房)
今は5巻を読んでいる。驚くほど何も覚えていないもので覚えていても変わらないだろうけれどもずっと新鮮に読んでいてこの長大な小説を初めて読んでいたときのことで覚えているのは沖縄旅行に向かう電車で読んでいた場面だけだった。だから多分あれは大学4年の終わり、就職する直前という時期だったということだろうか。大学時代に2年か3年か掛けて読んだという記憶はあったけれど読み終えたのはそのまさに最後の時期だったということだろうか。とにかく履修する授業がもうなくなったのか休みになっていて沖縄に友だちと行くそういう旅行があり朝、空港までのバスが横浜にあるというので横浜に向かっていてきっと横浜市営地下鉄だったのだろう、その車内で眠けとともに読んでいた。朝の光が車内に入ってページに差してチラチラときっとまたたいた。そのときにそれまでずっときっと退屈したりたまに面白がったりしながらずっと読んでいたこの小説が唐突にバキバキに面白くなって夢中になった頭が光とともにキラキラしていたその場面だけを僕はこの小説についての記憶として持っているしそれで十分だった。ところでその朝の車内を思い出すと脳裏に浮かぶのは濱口竜介の映画の場面でだから僕はその朝をその場面で考えているみたいで『親密さ』の電車だろうかと思ったがそうではないし『ハッピーアワー』の電車は夜だから当然違っていて『何食わぬ顔』だった、『何食わぬ顔』の美しい美しい電車の場面を思い描いていてだから大学卒業間近の僕のその朝の読書も甘美で美しいものだったということだった。
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