今日の一冊

2019.04.16
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####ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』(鼓直訳、水声社)
2018年4月16日
ビールを飲みながら『夜のみだなら鳥』を読み、眠くなって寝たのが4時半くらいだろうか、5時くらいだろうか、昼過ぎに起き、すぐに読書を続けた、途中でコーヒーを淹れ、途中でうどんを茹でて食べ、読んだ。
イリスの手から受話器が落ち、コードの先でぶらぶら揺れる。それにかまわず彼女はイネスの顔を見ながら、
「この神聖な土地が売られるのを、わたしが黙って見ていると思う? ヘロニモ、あなた、どうかしてるわよ。あんな目に遭わせておいて、それでも足りずに、陰謀に加担して神聖な土地を取りあげようとするのを、わたしが指をくわえて見ていると思っているの? ここには福者が埋葬されているわ。それをあなたとアソカル神父は、いちばん高値をつけた入札者に売却しようとしているのよ」
イリスは形相を変えている。両手を激しく振る。目が茶色に、黄色に、緑色に光る。コートが茶色なので、とくに茶色に光るが、その光には怒りがこもっている。永遠にお前のものである小さな土地を守り抜くという決意で、イリスは興奮して、さかんに手を振りまわす。イネスはあとずさりしながら、それでも強く要求する。
「イネス。お前は修道院を出なくてはいかんのだ!」
ふたつの声が拮抗し、からみ合う。イリスが吹きだす。イネスが訊く。
「なぜ笑う?」
ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』(鼓直訳、水声社)p.461,462
このあたりはすごかった。ここではイリスがイネスを演じており、受話器を持っており、電話の先はたぶんヘロニモで、一方で、イリスの目の前にいるイネスが声色を使ってヘロニモを演じている。イネスはそれからペータ・ポンセと同化する。語り手は醜い小さな男であったり、生まれたばかりの子どもであったりする。変幻自在のぶよぶよした、定まらない、固定化しない、なにかが蠢きつづけているような世界がひたすら広がっている。こんなに面白く読むことになるとは思わなかった。
老婆たちにまじってイネスもひざまずいている。老婆たちは願いごとを唱える……リューマチが治りますように……来週はヒヨコ豆でなくて、インゲン豆が食べられますように……ラファエリートが牢屋から出られますように。
同前 p.466
ヒヨコ豆は一等低いものだったのか、と知った。夕方になり眠くなった、しばらく昼寝をした、代々木八幡駅の前にいた、自転車だった、踏切がおりた、待ちたくなく、住宅街のほうの道を進み、歩道橋を自転車を押して上がっていった、すると駅のホームにおりる階段がありくだった、ホームを進むと改札があったのでピッとやって出た、いつのまにか改札の内側の世界にすり替わっていたらしかった。
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