本の読める店

今日の一冊

Entry 0411

桐野夏生『夜の谷を行く』(文藝春秋)

2017年4月11日
読書会の時間、参加者は二人だけだった、そのお二人は大きいソファ、真ん中のソファに座られた、それで僕はたちまちオーダーを出し終えてしまったのでコーヒーを淹れて、厨房寄りのソファに座って本を開いた、三人が一列に並んで本を読みふける格好となった、なんとなく僕はそれをとても好ましいものとして感じていて多和田葉子を読み終えた。遊歩、遊歩。フラヌールというらしい。こういうものをずっと読んでいたいな、と思って満ち足りた気持ちになって休憩に一服しにおりて、それが済むとまた戻って今度は桐野夏生の『夜の谷を行く』を読み始めた。連合赤軍の浅間山荘のやつに加わっていた女性、現在63歳、リタイア後現在はジム通いが趣味、という人の話だった。途中で東日本大震災が起きた。なんというかてくてくと興味の赴くままに語られる遊歩の小説を読んだ次に読まれた桐野夏生の非遊歩具合というか、脇目も振らずにゴールに向かって一直線、物語に貢献しないセンテンスなんて一つたりともない、という猪突猛進っぷりがとても鮮やかで、ギャップが、それで戸惑いながら、しかし簡単に僕もそういうモードになるからぐいぐいと読んでいった、面白かった、半分くらいが一時間くらいのあいだで読まれた。

電車に乗ると寝静まったマンションであるとか木立の暗がりの連なりがふっと途切れて、踏切やくぐっては上がる道路で開けてオレンジ色の光がまたたくそういう瞬間が好きだった、薄まった光が車内を舐めて消える。
だから夜中は遊歩していた。電車から見たら木立の暗がりの連なりにあたるところをずっと歩いていた、眠る電車の車両たちと桜の並木、深いところをチョロチョロと流れる川の水の音、その向こうの鬱蒼とした竹やぶと暗がり、それらを感じながらビールを飲みながら、1時間ほど遊歩していた、暗黒舞踏の人たちのようなうねり方をした花よりも幹や枝が主役になっているような桜の木が数本立ち並ぶところで背伸びしてフェンスの向こうを覗くと広大なグラウンドらしきものが見えた、その向こうに高速道路らしきものがあった、時間が狂っていって見かける車が古いものになっていった、電信柱は細い木製のものだった。パトカーが何台も何台も、大げさな音を響かせながらどこかに向かって走っていった。

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