fuzkue(フヅクエ) - 一人の時間をゆっくり過ごしていただくための静かな店

912日

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913日目、雨、ひたすら暇、暇、暇。閑古の音が豪雨のように轟き耳をつんざく。そういう日なわけなんですけど開店から912日目だった昨日、とうとう、という出来事が起きた。そろそろだろうなというのはずっと感じていたのだけれども素知らぬふりというか、まだ大丈夫、まだ大丈夫、と思っていた、自分を思い込ませていた、しかしそれも、とうとう限界を迎えた。

あれはいつのことだったろうか、開店準備の期間、なんのときだったろうか、忘れちゃったし「フヅクエができるまで」シリーズを読んだら書いてあるのだろうけれど、面倒なので見ないのだけど、ある日ヒカリエにおもむいた。ハンドソープとルームスプレーを買いにいったのだった。 というのも、そのあたりの時期で読んだのだったか、bar bossaの方の本であるところの『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか? - 僕が渋谷でワインバーを続けられた理由』に「ハンドソープとルームスプレーはなんかいいやつ使ったほうがポイント高い」みたいなことが書かれていて、それまでの人生でハンドソープやルームスプレーのことを考えたことなんてトータルで1分以内だったんじゃないかと思うのだけど、なので目からうろこで「なるほどな〜なんかガッテンガッテン!ポイント高い店がいい!」と思ってそうすることにして、といっても「いいハンドソープやルームスプレー」なんていうものがこの世のどの場所にて販売されているのかなんてまったく知らない僕は、困っちゃって、自分が知らない分野のことって本当に皆目見当がつかないもので、それで友だちとかに多分聞いたのだと思う、そうしたら「ヒカリエとか行ってみれば」とでも言われたのだったのだと思う、忘れたが。
それで工事の途中とかだったと思うのだけど、なんか暇な日だったのか、暑い日、僕はヒカリエに行ったわけだった。それでハンドソープをどうにかこうにか買って(「なるほどいいハンドソープというのはハンドウォッシュと呼ばれるのだな!」等の学びや気づきを得つつ)、次にルームスプレーを探したわけだった。

テスターの使い方等をお店の方に教えていただきながら、くんかくんか、いくつかの店でくんかくんかしていった。その果てにたしか3000円くらいのルームスプレーを買ったのだった。3000円。3000円。
は???アホなの???こんなん100円とかでシューでいいんじゃないの???トイレなんて100均とかで売ってるやつでシューで十分なのでは???なんでトイレに置く極めて少量の液体に3000円も掛けなきゃいけないわけ???100mlとかで3000円とかどういうこと???3000割る100だから1mlあたり30円ってこと???1mlあたり30円ってどのくらい高いっていうことなの???ペットボトルの飲み物だったら500mlで100円とかだから100割る500だから1mlあたりでいうと0.2円っていうことは1mlあたり30円と比べるとどの程度割高ということなの???30円と0.2円はいったい何倍違うということなの???30割る0.2をしたら答えということ???であるならば15???じゃなくて60???どっち???四則演算ってどうやるんだっけ???というか四則ってなにとなにが4つあるということなんだっけ???というか則ってなんでさんずいついてないんだっけ???四測じゃいけないんだっけ?四則演算って測定みたいな意味とはまた異なっているのであるのだっけ???と混乱に陥りながら買い物を済ませて、それでもこれでポイントの高い店ができると思うと二倍も三倍も心強い気持ちになったものだった。もともとの心強さ値がマイナスだった場合はどうなるんだっけ???マイナス×マイナスはプラスっていうけどそれは人間の心理や人間関係でもいっしょなんだっけ???人間の心理や人間関係は掛け算じゃなくて足し算なんだっけ???と混乱に陥りながらも買い物を済ませて、それでもこれでポイントの高い店ができると思うと二倍も三倍も心強い気持ちになったものだった。
そして晴れてオープンを迎えた2014年10月17日、「頼むから誰も使うなよ」と念じながらトイレにいいルームスプレーを置いたのだった。

少しずつ、少しずつそれは減っていった。しかし意想外に減らず、人々は思いのほかに消臭というか、消臭というよりは覆香という感じでこれは勝手に作った言葉なのでなんと読むのか知らないけれど、人々は思いのほかにトイレのあとにルームスプレーをシュッとしたくならないものなのかな、と思いながら、穏やかな日々が過ぎていった。減らないルームスプレーを安らいだ気持ちで見ることが僕の日課になっていった。
しかし年が明けたくらいでいよいよその命が尽きそうなことに気がついた。それでもたまに試しにシュッとしてみると「まだ現役だよ、まだ捨てないで」と伝えてくるような、元気な噴霧を披露してくれた。
とはいえ、いつまでももこのまま噴霧し続けられるとは、とうてい僕も思えなかった。代わりを見つけなければならないと覚悟を決めた僕は2月の休みの日、伊勢丹の地下2階にいって新たなるルームスプレーを購入した。今度は50ccで1700円くらいだった。これで、いつ臨終を迎えても大丈夫だった。

4月16日、昨日のことだった。トイレ掃除のためにトイレに入った僕がからっぽになったその瓶の姿を見つけたのは。事切れていた。試してみようという気も起きないほどに、それは静かな眠りについていた。おつかれさまでした、僕はそう言って、瓶をその場所から取り上げた。

2014.10.17 - 2017.4.16。
912日間、思ったよりもずっと長いこと活躍してくれた。3000割る912なので1日あたりの費用は3.28円、約3.3円。ペットボトルのお茶はその日で基本的に飲み終わるし衛生的にもその日で飲み終えたほうがいいだろうから1日だとして100割る1なので1日あたりの費用はそのまま100円。100割る3.3なので30.3、つまりペットボトルのお茶と比べていいルームスプレーは約30倍もコスパよし。これは目からウロコの新発見で、つまり我々は「3000円のルームスプレーはお茶より実質的に安い」という真理か公理か定理かどれでもないかわからないけれども、そういうあれを得たのだった。

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