幸せな仕事

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仕事は楽しいですかと最近わりと立て続けに問われて口ごもったというか、日々楽しいという感覚でいるわけでは別になくて、でもつまらないかといえばつまらなくは全然なくて(暇すぎて暇な状態に飽きたときとかは別として)。
「楽しい」よりは「喜ばしい」の方が実感と近くて、おーなんかいい時間ができてるぞーみたいに思えるとき、いい時間過ごされたんだろうなー帰りがけのあの感じとかいただいたお言葉から察するにみたいに思えるとき、それはとても喜ばしいというか喜びにあふれている。それはなんというか最高最高、という感じがする。端的に言ってアガる。冥利というか。
でもそれも毎日毎日どんな場面でもそういうふうに感じられれば一番いいかもしれないけど、特に喜びを感じていない時間があるからこそ喜びの瞬間が際立つということもあるだろうから構わないことだけれども、毎日毎日どんな場面でもそういうふうに感じているわけでは全然ない。だから「仕事は喜ばしいですか?」ともし問われたとしたら「うれしいことに喜ばしいことは多々あります」ということになって、でももっと日々の実感を表す言葉は他にありそうで。
お客さんが来られて、オーダーを受けて、何かを作ってお出しして洗い物をしてお帰りの際にほんの少し話したり話すわけでもなかったりして見送って、ということをやっていてなんというか、いつもいつも思っているというか感じていることというかベース過ぎて特に意識はしないのだけど、それらのどの場面を取ってみてもこれらは僕にとってひとつも嫌じゃない。「ひとつも嫌じゃない」、これが多分いちばん「あーそれそれ」という言葉で、だから楽しいですかと問われたときも「楽しいというよりはひとつも嫌じゃないという感じですね」というふうに答えた気がする。この店を始めて2年が過ぎたけれど、これは以前も書いたけれど、今日は店を開けたくない、と思うことはこれまで一度たりともなかった。だからなんというか、ほんとうにひとつも嫌じゃないんだなと思う。
(ただし仕込み業務は別で、やり始める前はだいたい常にめんどくせーーーーと思っている(なので気分を盛りたてるための大きな音の音楽が必要になる)。仕込みさえなければなー最高最高なのになーみたいなことは根が怠惰なので非常に思う)
それで、それとは別に、最近続けざまに「うひょーーー」ということがあったのでそれを書こうかと思って書き始めてやっと本題に入れるんですけど、最近続けざまに「うひょーーー」ということがあったんですよね。
一つはインスタ等でも書きましたがナプエというフィンランドのジンを仕入れて、1年以上ぶりで、仕入れて。そうしたらそれが前に飲んだときよりもずっとビビッドに「うまっwwwww」となって、作って味見するたびにあんまりおいしくてうれしくなってたのしくなるから追加でもう1本買ったくらいだったのだけど、オーダー受けて、作って、味見して、「うまっwwwwwwwwww」となっているとき、僕は明確に幸せだと感じている。
あるいは今はもう次のやつに切り替わったのだけどハーブティーがジュニパーベリーの番だったとき。お湯に浸す前にまず実を潰すのだけど、すり鉢に実を入れてすりこ木でぺったんぺったん潰して、潰して、というのをやっていくとジュニパーベリーの香りがふわりふわりと鼻に到達する瞬間があって、すると「ぷあ〜〜〜」となって、そのとき僕はとても幸せを感じている。あるいは少し前に紅茶がダージリンのセカンドフラッシュの番だったときも、その「マジこれほんといい香り」という香りに「ほわ〜〜〜〜」とか思って毎度すごいうっとりとしたり。
いちばん頻繁にあるのはコーヒーを淹れている場面で、ときどき僕はすごい顔を近づけてふくらむ豆を凝視するみたいな姿勢で淹れていることがあるのだけど、それはすごい真剣そうというかコーヒーに対するこだわりめちゃんこありそうに見えそう(誰も見てないけど)という感じの姿勢なのだけど、実のところは鼻を近づけてひたすら香りを吸い込んでいるだけで、そのとき僕は「いいにおいw いいにおいww いいにおいwww」としか考えていない。幸せというかちょっと通り越して恍惚状態になっている。
こういう場面に出くわしたときに、なんというか、たまにだけど、この仕事って幸せな仕事だなーなんせお客さんにお出しするもの作っている過程でこんなに大きな幸福を感じる機会があるんだもんなーアホほど幸せだわほんとこれ、と思うことがある。そういうときはなんというか、実に実に気分がよい。
以上、前向きな記事でした。 photo : sachiko saito