本の読める店

あたらしいお酒、あたらしい紅茶、あたらしい朝

Entry blog fuzkue344

「とりあえず要点を三行で書いてほしい」と言われたことはたしかにあるため、今回はそれに応えてみることにしますが、

・光遠というジャパニーズスピリッツを仕入れました。焼酎ベースで柚子や緑茶等日本のボタニカルであれした、これこそジャパニーズジンや!みたいなやつです。
・そのときどきの紅茶が「屋久島八万寿茶園」という和紅茶に切り替わりました。茶葉を1,2年熟成させたというあれだそうで、おいしかったです。期せずして和な二種類の新顔。
・明日14日から「あさふづくえ」が始まります。

3行ではなく3項目という感じになっちゃいましたが、ともあれそういった内容が以下で書かれます。

生きているだけで肩が重かった。定食屋の店長さん休みのため臨時職員として昼を労働にあて、その時間が終わると肩の重みがずっしりと感じられ、僕は「生きているだけで疲れる」と言葉を宙に放ってはそれを聞き、放ってはそれを聞きを繰り返した。
生きているだけで疲れる僕は自身をさらに疲弊させようとしたのか、それとも単純にその必要に迫られたからなのか、当然後者だが、三軒茶屋まで自転車を走らせて焙煎されたコーヒー豆を受け取り、丁重に礼を言った。それは2週に1度ほどのペースでおこなわれる「コーヒー豆の受け取り」の儀であり、これまでであればそれは午後1時すぎにおこなわれ、2時くらいには店に戻って仕込みを始めるというのが取られる流れだったが、この日は前述のように定食屋の大将としての労働をおこなっていたため、また、仕込み活動もその時間を駆使して猛烈な勢いでおこなってだいたい終えられたため、そのまま三軒茶屋にしばらくとどまることにして、秋くらい以来で行っていなかった好きなコーヒー屋さんに行くことにした、古い、急な階段をのぼる。
カウンターの、すぐ目の前が壁の席に最初はついたが、あまりにすぐ目の前が壁であり、今の僕の気分はすぐ目の前が壁よりは外の景色が見えている方がいいというものだったため3席ほど横にずれることにして、するとすぐ目の前は壁ではなく窓を通したいくらかの景色となった。1階部分が何かわからない古びたマンションをあかるい緑色の蔦が這っており、ベランダの洗濯物はいくらか吹いている風ではためいている。
ちびちびと熱い濃いコーヒーを飲もうという気でいたものの自転車活動にともなって体温が上昇したのか、アイスのカフェオレを注文した、注文したアイスのカフェオレが出されると、グラスに手を触れることなく、ストローに顔を持っていき、一口、二口と吸い上げた。そして煙草に火をつけた。

普段であればこういったコーヒーの時間というのは短いものであれ何かしら本を取り出し眺める等するものだが、この日は珍しくそういう気も湧かず、僕はただぼけーっと窓の外に目をやっていた。
カウンターの高さがその姿勢を促すような高さであり、左腕の肘から先は机にぺたりとつけられ、煙草を持った右肘は立てられた。前傾の僕のこめかみの斜め前から紫煙が立ち上がり、細まり、消える。
するとふいに、「あーさびしいなー、かなしいなー」という言葉が思われ、少しの時間を置いてから自分が思った言葉が意味と形を持ち、それに気がついた僕は「なんぞw」と笑ってしまった。そこからはどれだけ「寂しい」であるとか「悲しい」であるとかを体感しようとしても笑い事でしかなくなって、ひとしきりニヤニヤしていた。
眼前の曇り空と、スピーカーから流れる女性ボーカルのジャズと、そしてなにより片肘を立てている気だるげな姿勢がこの思考を招いたように感じ、なんもかんもが退屈なステレオタイプでできた男がここにいるもんだと、そこまでのことはしかし別に思わなかったか。あほらし、と思っただけだった。

ニヤニヤした気分をひきずりながら、同じような姿勢で煙草を吸い、ときおりカフェオレに口を伸ばし、を続けながら、今の流れを留めておこう、でないと言葉が逃げていく、と思ったらしく、しきりにiPhoneタイピングをおこなって例えば
「窓に面した席で頬杖ついて空を見上げながら
あーさびしいなー、かなしいなー
という言葉を思っていて、それにはたと気づいて「なんぞw」と笑ってそこから先はニヤニヤしていた
タバコ吸いながら、本も出さずに
女性ボーカルのジャズ、曇り空、
紫煙が、耳の横の高さから上がりながら

姿勢が思考を招く」
といったメモが書かれた。そうしていると今度はふいに「悪くない」という考えが浮かんだ。このリズムも悪くない。営業前の夕方に、暮らしや働きとは少し離れた町のコーヒー屋さんでこうやってぼーっとする、このリズムもそう悪くないな、そう思ったら、さまざまが軽くなるように感じられ、当然の帰結として肩の重みも気にならない程度になっていった。
こうやって、物事はときにあっけないほど簡単になり、またバカらしいほど複雑になり、それを繰り返しながら生きていくほかないのだろうと、そのときそう思いはしなかった、いま思ったというかただ書かれた、意味があるとも思えないことが書かれた。事実として言えるのはそれがたしかにいま書かれたということと、その夕方同じページに打たれていた残りのメモが
「税理士さん値段、去年の1.5倍!なんで!たしかに初年度特別割引とあった!艱難辛苦!

3行で、

タバコを立てて吸わないから好きさ

6番、ピッチャー、大谷、どよめき、大歓声」
だったということ、その二つ。
店を出たころにはすっかりとゆるやかな心地になっており再び自転車にまたがった僕は三宿、池尻、大橋と、過ぎゆく土地の名を確認するように松見坂、松濤、富ヶ谷と、そのつど発語しながら、おおらかな、ほがらかな、はじめてのような気分をたずさえ、走った。

「フヅクエの日々」の他の記事