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フヅクエブックスvol.003 『孤児』(フアン・ホセ・サエール)

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フヅクエブックスとは

まもなく明けてこよう頃合いにもかかわらずホセの目は冴えている。ハンモックの下から絶えず聞こえてくる赤ん坊の寝息が彼を覚醒の側にとどまらせていた。ホセを包み込む不安をよそに、赤ん坊は土の上で安心しきって眠っているらしかった。

彼がそれを拾ったのは二日前のことだった。山肌が焦げ茶と紫のグラデーションを作る時間、遠くに見える集落のあちらこちらから細長い煙が上がり、空の途中で消えていく。川岸を一歩一歩、何かを確かめるような、あるいは何かを引き延ばそうとするような調子で歩いていると、右手の茂みに銀色の鳥が一羽降り立ち、また一羽と続いた。猿の死体でもあるのかもしれない。「猿である場合」彼はせり上がってきたつばを飲み込むとそちらに早足で向かった。
枝葉を掻き分けながら茂みの中を進んでいく。硬く繁茂するそれらは両手でこじ開けると強くしなり、手を離した次の瞬間にホセを鞭打った。通らせまい、あるいは捕らえてやろうという意志を持っているかのようで、ホセの意欲はすぐに萎えた。食欲とインディオたちから誉められたいという思いは目の前の困難より強いものではないらしかった。「身の丈に合わないことはしないに限る」彼は諦め、引き返した。と、戻った川岸の地面に先ほどはなかった、薄茶色の生物が横たわっているのが目に入った。生きている。それは無感情な、しかし確かな視線を茂みから出てきたホセに注いでいた。
それが現在ホセの小屋で寝ている赤ん坊であることは話の流れからしてまさにその通りで、しかし。

赤ん坊を抱えたホセが集落に戻ると、焚き火の周囲でいくつものグループになって甲高い声で話していたインディオたちは途端に話をやめた。ホセ自身、想定外の荷物とともに帰路をゆきながら「人々はこの状況を」とあれこれと思っていたため、その反応は想定していたものの一つだった。
インディオたちはホセを訝しげに見やりながら、ヒソヒソと話を始めた。そのなかに奥歯のこすれる、鈍いがしかし耳にはっきりと届く音が交じるのをホセは聞いた。それは彼らが不愉快な話題をするときに必ず発する音だった。
ホセは不安が高じるのを感じながら、広場中央の一段と大きな焚き火の輪の中にいた酋長のところへ向かった。その輪の面々だけは、話をせず、ただホセをまっすぐ見ていた。
彼がそこに辿り着いて両腕で抱えた赤ん坊を火にくべるようにして突き出すと、酋長は「え?それは?」という顔を見せた。ホセにとってもそれは「え?」という反応であり、困惑の度合いを強めながらも、赤ん坊を地面に置くと身振り手振りで経緯を懸命に説明した。しかし酋長は引き続き「え?え?」という顔をして周りのインディオたちと顔を見合わせているだけで、一向に理解してくれそうな気配がない。しまいには必死に何かを訴えかける人間の存在などないかのように、彼らは雑談を始めさえした。ホセはとうとう諦めると、赤ん坊を拾い上げて小屋に向かった。

翌日、女は魚を獲りに川へ行き、猟のない男たちは広場に集まってとろんとした目つきで話をしたり、寝そべったりしている。表面的には集落の様子はいつもと変わらなかったが、どこか奇妙な緊張感があるようにホセには感じられたし、また、彼を見る彼らの目つきは明らかに不審げだった。彼に近寄ってきて肩を叩いたり、ニタニタと笑いかけて早口に何かをまくしたてたりする者は誰もいなかった。遠くからホセを見、そしてヒソヒソと話す。小屋に置いてきた赤ん坊が泣き声を上げたときなど、彼らは耳を塞ぎ、目に恐怖の色を浮かべさえした。そして泣き止むと、今度はホセを非難するように見るのだった。ホセはうんざりした。そして不安は募った。「嫌な予感しかしない…」

という、なんでこれ書いたのかわからないんですが、というか宣伝するならもっとまじめに人が「それは読んでみたいね」という気持ちになるような文章を書くべきだと思うのだけど、思いつつこんなどうでもいいことを書いてしまったのだけど、フアン・ホセ・サエールの『孤児』は上記のものとはまるで違う話なんですが、今回それを仕入れました、という話をしたかっただけなのですが。
店頭のポップに書いたのは「見たことのない風景、見たことのない運動、見たことのない感情、それらを見ることが小説を読む醍醐味の一つだと思っている。この小説はそれらをたくさん与えてくれます」というもので、まあとにかくすごい小説だよ!ぜひ読んでね!というところで、フヅクエブックスvol.003のご案内でした。003っていうのが肝だよねというか、3桁は必要だよねっていうのが威勢がよくていいよねというか。

まいいや。
なお、今回もご購入いただくと僕の読書感想文というか読書エッセイというかが謹んで贈呈されます。また、『孤児』すでに持ってるよ!という方にもお渡しすることにしました。ご持参いただくか、証拠写真的なものを提示いただけたらほいほい渡します。(これ001と002の『通話』と『無分別』にも適用します)

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