本の読める店

静寂を壊すものども

Entry blog fuzkue125

今日は実にゆっくりした日曜日で僕はそろそろ眠くなってきたところなのだけど、だから、だからでもなくていつだってそうだけど、やはり静かだ。悪くない静けさだ。

静けさにもいろいろな静けさがあると思っていて、温かい静けさもあれば冷たい静けさもあるし、えーと…。2つしか出てこなかった!なんて貧弱な。
あ、あとは神聖な静けさとか?かな。

フヅクエは「静かな店」を標榜しているわけだけど、僕は神聖な静けさのようなものを作り出したいわけではない。
ピンと張り詰めた、衣擦れ、咀嚼、嚥下、一挙手一投足に気を遣うような静けさは僕の望むところではなく、ゆるやかで落ち着くことのできる静けさを作りたい。それはもしかしたら、静けさと普通呼ばれるものとは異なる何かだったりするのかもしれないし、ある種の猥雑さのようなものとも手を取り合うような何かだったりするかもしれないし、それだったらそれでよくて。

良かったら書いてねというので置いてあるアンケートの最初の項目が「居心地はどんなだったでしょうか。特に気になるのは、どのくらいリラックスできる環境だったかというところです。静かさゆえ「咳しにくい」みたいな緊張を強いる感じになってしまったら本末転倒だなと。」以下云々というやつで、質問すらダラダラしているのだけど、しばしば「静かだとは感じませんでした」というリアクションを、好意的なニュアンスの中でいただくことがあり、「してやったり!」という気持ちになる。してやったりというか、うれしい。

静けさをどこまで壊すか、その調整をどうするか、という話なのかもしれない。
例えば冷蔵庫のファンが回る音、これ僕の座っているところの真後ろだから僕にとってはけっこううるさくて、すごい嫌いだから静かな冷蔵庫があるならいつの日か買い換えたいくらいなのだけど、これも空間の静けさをいい具合に壊す役割を担っているし、あとは窓の外の声とか物音とか。パソコンをされるお客さんのタイピングの音とかも僕は「いいぞ」みたいな気持ちになることが多かったり(たまにエンター強く叩きすぎでしょっていう気になることもあるのでそういうときは言うのだけど)。
それからもちろんだけど流している音楽のボリュームや調子。基本的にはビートのないものが多いのだけど、奥のほうでかすかに打つようなのはいいかもしれない。歌物は基本的に掛けないけれど、grouperとか、なんか溶け入っているようなのはありかなとか。日本語は絶対になしだなとか。
お客さん同士の話はコソコソでも(むしろコソコソこそ耳につく)ご遠慮いただいているわけだけど、オーダーのときとかお会計時とかにわりと明朗に声を発するのはむしろありだと思っていたり。これは「たちまち終わることが確実なコミュニケーション」という感じがわかるはずだからそれを用いて静けさ壊して空気をゆるますみたいな意味合いもあったり、ただの物は言いようってだけかもしれなかったり、でも悪くない壊れ方だとは確かに思っていたり。
それから調理とかなんやかんやの僕の動きが発する音。これが一番大事なんじゃないのかと。だからこそ一定のオーダーがあると嬉しいよねというか、暇な日は僕もこうやって座ってぽけーっとしているからタイピング音以外の音の発生源になれないっていうのが暇デメリットというか。わりとこの発言は適当だけど。でもこの厨房で発する音はうまくいけばとてもいいけれど下手を打てばいとも簡単にダメな壊し方になるので、食器を戻すのとか洗うのとか、音の鳴りはけっこう色々を簡単に反映させるから(焦りとか手荒さとか無神経とか、その逆も然りで慎重とか丁寧とか慈しみとか愛とか赦しとか)、耳障りな音が立たないように気をつけようとはしつつ、「あちゃっ!」ってなることも多々あり、まだまだ修練が必要というか。

そんなわけで静かだけど静かじゃないけどやっぱり静かという感じの店を作っていきたいですね、という話でした。

photo by 斉藤幸子

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